【現場女子】「ハンディキャップ雇用」で新たな人生にチャレンジする難聴の女性職人と『株式会社 絆』に話を聞いた_00

「ハンディキャップ雇用」で新たな人生にチャレンジする難聴の女性塗装職人と『株式会社 絆』に話を聞いた

2017.09.21

生まれついての難聴というハンディキャップを持つ女性を塗装職人として雇用した『株式会社絆』(神奈川・相模原)。危険性はもちろん、高いコミュニケーション能力が求められる建設現場に障がい者が職人として活躍することは十分可能なのだろうか。

 

絆の代表取締役を務める関 直人さんと、その女性職人・大谷良美さんにお話を伺った。

 

 

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[プロフィール]

【左】 関 直人(せき なおと)

1975年生まれ、神奈川県相模原市出身。15歳から建設現場で働き、一人前の塗装職人となった後に独立、兄とともに「株式会社 絆」を設立。居を構える街に役立つフリーペーパーの作成など、地元に貢献するための働きかけも積極的に行っている「頼れる兄貴分」。

 

【右】 大谷良美(おおたに よしみ)

1987年生まれ、神奈川県平塚市出身。幼少時に高熱を患ったことから、生まれつきの聴覚障害に。30歳を機に、以前から憧れていた塗装職人への道を歩もうと絆の門を叩く。目下修行中の身で、自分にしかできない職人像を模索している最中。座右の銘は「大丈夫、なんとかなる!」。

 

 

「塗装職人になりたい」。その気持ちに心を動かされる


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—−塗装職人の世界で、女性のハンディキャップ雇用は珍しいですよね。

 建設業界から見ても、「女性」と聞くだけで、職人としての採用をためらいがちでした。これまで27年ものあいだ、塗装職人として働いてきまして、その中で何人かの女性職人と仕事をしたこともあるのですが、正直あまり良いイメージがなかったんです。

一般的に、女性職人は体力が男性よりもないと言われていますし、危険な現場を怖がる方もいるからです。

建設業界の現場は常に危険と隣り合わせ。だから事故が起こらないよう五感をフルに使いながら細心の注意を払って作業に取り組みます。そこで視聴覚障害と聞くと、候補の段階から外してしまう……。

これは差別などではなく、責任問題に関わることとして、致し方ないことでしょう。

 

 

—−では、なぜ大谷さんと面接をしようと思ったんですか?

 キッカケは、2017年に弊社が出場した『建設職人甲子園』(※)のプレゼン大会でした。それまではハンディキャップ雇用を検討したことすらありませんでしたが、その地区大会で「関社長はハンディキャップ雇用について、どうお考えですか?」と質問されたんです。

そのときに改めて「社会には、障がいを持っている人たちも働かないといけない現実があるんだ」ということが頭の片隅に残りました。

 

 

—−大谷さんと出会ったのは、まさにそんなタイミング?

 ええ、そうです。女性として職人を目指すこともそうですが、何よりハンディキャップを持っていながら目指そうとしている彼女の思いに注目したんです。また、お互いのタイミングもちょうど良かったんですよ。

 




「建設職人甲子園」のプレゼン大会とは

建設業に携わる職人が、仕事や業界への熱い思いをプレゼンテーションで日本一を競う大会。2017年に開催された第2回大会では、東京・埼玉・神奈川・千葉・栃木・大阪・九州の全国7エリアで地区大会が開かれ、計451チームがエントリー。

株式会社 絆は、社長をはじめとする8人が壇上に立ち、「顧客・地域・仲間」をテーマに、仕事や家庭での失敗と後悔、そこから立ち直り、社会に貢献する人や企業になろうとする決意を熱く語り、第2回大会で優勝した。

 




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寮から会社まで自転車通勤しているという大谷さん

 

—−「タイミングが良かった」というのは?

 塗装職人の求人がなかなか集まらなかったときに「寮完備にすれば、地方の職人も応募してくれるだろう」と、寮を新設したんです。出来上がったまさにそのタイミングで、「寮が完備されている会社を」と大谷さんからの問い合わせが。本当に、何かの縁なんだろうなと思いましたね。

 

 

—−大谷さんは数ある仕事の中から、なぜ塗装職人に応募したんですか?

大谷 弟2人が塗装職人として働いている姿を見て、「私も塗装の仕事がしたい!」と憧れていました。元々体を動かす仕事が好きで、高校卒業後の3年ほどは自動車メーカーの工場で働いていたんです。

それから何度か転職を試みたんですが、ほとんどの企業から「聴覚障害を持っているとコミュニケーションを取ることが難しくなってしまうので、雇えない」と断られてきました。

塗装職人なら、最低限のコミュニケーションはしっかりとやりつつ、「常に会話をしていなければならない」ということに煩わされず仕事ができるのでは、と思ったんです。

 

 

 面接で初めて彼女を見たとき、華奢な体つきもあって「現場で働くのはキツそうだな」と正直思いました。だけど、「なんで塗装職人になりたいの? クロス屋とか内装の仕事ではダメなの?」と筆談で尋ねてみたら、「私、ペンキを塗りたいです!」と力強く言ったんですよ。

塗装未経験者の募集は少なくないのですが、彼女のように「ペンキを塗りたい!」と力強く言える子はまずいません。

そこで気持ちが揺れちゃって、さらに初のハンディキャップ雇用ということもあって、いろんなイメージをしてみた結果、彼女の気持ちを汲んで雇用することに決めました。僕、元々人に何かをしてあげたくなっちゃうタイプなんですよ(笑)。

 

 

大谷 初めて関社長と対面したときの印象は「イカツイ!」(笑)。だけど、少しずつ話しをしてみたら「わかりやすく会話してくれる人だな」と思うようになったんです。丁寧に伝えようとしてくれる社長の人柄が伝わってきました。

 

 

職人として生きるために、自分の得意分野を見つける


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—−実際に塗装職人として働いてみて、大谷さんはどう感じましたか?

大谷 塗装業は、想像よりもキツイ仕事だと感じました。覚える仕事内容がたくさんありすぎて「ヤバイ!」とも思いましたが、今は少しずつ仕事にも慣れてきて、だんだん楽しいと思うようにもなりましたね。

 

 

 2017年4月から研修生として働いてもらっていますが、彼女が担当したお客様から「一生懸命塗装してくれる姿が印象的だった」というお声をいただくことも。現場での作業が完了したときにお客様と記念撮影をするんですが、彼女の笑顔には充実感があるんですよ。

 

 

—−大谷さんは仕事中、同僚とはどうコミュニケーションを取っているんですか?

大谷 ホワイトボードに文字を書いてコミュニケーションを図っています。同僚のみんなは優しくてあたたかい人たちばかりです。

 

 

 改めて、コミュニケーションというのは人と人とのあいだに生まれる「繋がろう」という意思の表れなんだと実感します。健常者同士でもうまくコミュニケーションできないときもありますが、大谷さんにある「ちゃんと伝えたい」という思いは私たち以上のものを感じるんです。

もちろん、誰とでもうまくやり取りできるというわけではないですが、聴覚障害かどうかは大きな問題ではないと思えるようになってきています。

 

 

—−関社長から見て、大谷さんの働きぶりはどうですか?

 研修生として2ヶ月が経ち、足場への慣れもあって、以前は塗れなかった場所でも作業ができるようになってきました。

それでも、一人前の塗装職人としてやっていくためにはまだまだ乗り越えなければならないことがあり、「その壁にどう立ち向かっていくか」が今の彼女に求められていることだと思っています。

 

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—−その「足りないもの」は何でしょう?

 大谷さんでしかできない「何か」を見つけることですね。「何かひとつ、自分の得意なものを見つけろ」と、入社した職人全員にいつも言っているんです。

「手先が器用だ」「気遣える」など、得意分野はさまざま。それぞれが個性を光らせることで「この人に仕事を頼みたい」と思われるようになって欲しいんです。

 

 

—−男女の違いも、使い方によってはメリットになりますよね。

 ええ、彼女には女性職人としての光るものを求めたいんです。たとえ作業スピードが速くなくても、他の誰よりもきめ細やかに綺麗に塗れたり、建物の細かな部分に目が配れたり。これは男性ではなかなか目が行き届かない部分でもあります。そういったところを期待しています。

 

 

—−大谷さんが自分の得意分野を見つけるには、どうすればよいのでしょう?

 彼女が面接時に言ってくれた「私はペンキを塗りたい!」という気持ちを胸に、もっと積極的に仕事に取り組んでいくことですね。

職人は「やりたい!」という気持ちがあれば、仕事の姿勢や行動、そして結果にも表れます。弊社は塗装自体が好きな職人ばかりですから、その気持ちがそれぞれの得意分野につながっているんです。

 

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地域に役立つフリーペーパーを発行するなど、絆は地元に役立つ活動も積極的に行っている

 

—−関社長は、どんな気持ちで社員である職人たちと接しているんですか?

 僕はただの作業員を育てる気はなく、職人としても人間としても成長していってほしいと思っているんです。今は研修生である大谷さんにも、これからは今まで以上に厳しい要求をしていくことになるでしょう。

ハンディキャップの有無は関係ありません、全員を平等に扱うスタンスはそのままに、その厳しさを乗り越えていってほしい。彼女に期待しているからこそ、同じように接していくつもりです。

 

 

大谷 塗装職人という仕事の難しさに直面していますが、お客様や同僚らともうまくコミュニケーションを取りながら、一人前の塗装職人として自立できるよう仕事に打ち込んでいきたいと思っています。

 

 

—−実際にご自身が体験している立場で、他の女性にも建設現場での仕事をすすめてみたいと思いますか?

大谷 ええ、もちろん!  なかなか女性の姿を見かけない業界ですが、仕事そのものはやりがいに溢れています。女性の職人さんがもっともっと増えると嬉しいですね!

 

 

その思いを汲み取れる現場があれば、障がいを抱えていても活躍することは十分できる!




 

聴覚障害があるというのは、確かに小さくないハードルと言えます。耳栓をして建設現場に行く、と想像するだけで、「本当にそこで仕事ができるの?」と身震いしてしまうところです。

しかし実際にその現場で働いている大谷さんは、そんなハンディキャップをものともしない熱い想いで仕事に取り組んでおり、私たちの懸念を瑣末なことと思わせるほど生き生きと躍動されているようです。やはり大事なのは「仕事にかける情熱」なのだと感じ入りました。

取材協力=株式会社絆
取材・写真=LIG inc.
文=流石香織

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