カナダ人大工、アダム・ズゴーラが込める日本の伝統建築への想い_00

「伝統」を「今」に生かした家づくりを目指す。カナダ人大工、アダム・ズゴーラが込める日本の伝統建築への想い

2017.10.23

日本の風土に合わせた建物のひとつに「日本家屋」がある。この日本家屋の特長は、内と外の境目が曖昧なことだ。内と外を段差でつなぐ「土間」や「縁側」など、日本独特の家づくりは海外の建築家たちにインスピレーションを与えることもあるという。

 

2003年に来日したカナダ人デザイナーのアダム・ズゴーラ氏も、日本家屋にインスピレーションを感じ、大工職人の道を志したひとり。日本の伝統技術に触れるうち、どのような家づくりを目指すようになったのか?

 

アダム氏から見た日本の伝統技術と、彼なりの家づくりのこだわりを教えてもらった。

 



[プロフィール]
アダム・ズゴーラ
1975年生まれ、カナダ出身。カナダの大学で工業デザインを専攻、その中で日本の伝統建築に興味を持ち、2003年に来日。勉強が目的の短期を予定していたが、自ら大工の仕事に携わりたいと思い、とある職人の元に弟子入り、そのまま日本に住む。現在は、自身が代表を務める『KOYANE建設』と並行で、「自然素材の住まいと暮らしづくり」を提案する長野のアーティスト集団『アトリエDEF』のメンバーとしてもさまざまな活動に従事する。

 

 



よい素材で家づくりがしたい。素材や手法へのこだわりも忘れない


群馬県を拠点とするアダム氏の作業場を訪れてみると、「手刻み(木材に墨を付け、ノコギリやカンナで加工していく技法)」をしているアダム氏が出迎えてくれた。

 

「国産の木材はすべて私が手刻みで加工しています。材料のこだわりは、国産であること。価格の安い輸入材よりも、地元の山林から切り出した国産材を使えば、山にお金が戻って、木を手入れする余裕が生まれます。そうして増えた良い国産材を使えるので、私も気持ちよく仕事ができるんです」

 

そもそも日本の大工職人の技は、国産材に合わせてあるものだという。材木に長さを出す「材を継ぎ足す」ときに使われる「継手」の手法も、水分の関係で反りやすい国産杉をまっすぐにつなぎ合わせるためだ。国産材にこだわった手法を採用しているからこそ、アダム氏の家づくりには時間がかかる。

 

「主に注文住宅を受注していますが、1棟に7ヶ月ほどかかります。たしかに効率的にすればもっと受注できるかもしれません。しかし効率的にすると、どこかに手抜きが出てしまいます。それでは良い家をつくれません」

 

何ひとつ妥協することない、アダム氏の家づくり。その評判は広がり、独立して7年、「アダム氏につくってもらいたい」と営業しなくても声がかかるほどになった。

 

 

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日本建築を知るため、大工職人の世界に踏み出す


「日本に来たとき、大工になるつもりはありませんでした。もともとは工業デザインを勉強していたので、日本建築のデザインは雑誌などの本から学び取ろうとしたんです。

でも、紙だと2次元で表現されているので、奥行きがなくイマイチわかりませんでした。そのため、実際に日本建築を見てみたい、とワーキング・ホリデー・ビザで滞在できる1年間限定で、日本で勉強することにしました」

 

そうして来日したアダム氏だが、実際に建物を外側から見ても、まだその構造が理解できない。「何としても日本建築を学び取ろう」と、解体作業を手伝うこともあったという。

 

「解体作業をしながら、『ただの木材がきれいな家になる仕組みは、大工しかわからないな』と思ったんです。大工から技術の話を聞きたい、と大工に興味を持ちました」

 

「大工」といっても、その種類は多い。なぜ、日本建築に関わろうと思ったのだろうか。

 

「それまでは都会が生活の中心だったんですが、山林の多い村に引っ越してきて、木こりの仕事をするようになりました。すると、木こりの知り合いから、建築に関わる仕事を任されたんです。

そのとき、『日本の大工職人は独自の文化がしっかりと残っていて、丁寧な仕事をするんだな』と感じました。そして改めて『自分の好きな日本建築の構造と技術を学びたい』と強く思ったんです」

 

そのタイミングで、のちの師匠となる棟梁との出会いが訪れる。義理の父の知り合いだった師匠は、当時担当していた珍しい建築物を見せるため、アダム氏を自分の現場まで招いた。

 

「師匠の作業場を訪れたとき、腹は決まりました。師匠の家づくりが素晴らしかったので、『ぜひとも師匠のもとに弟子入りしたい』と何回もお願いして、ようやく弟子入りできたんです」

 

日本家屋に惚れ込んだアダム氏は、師匠のもとで徹底的に日本建築を学び、今に至っている。

 



国産材には、伝統ある大工の技術が求められる


日本建築を学んだアダム氏は、日本家屋ではなく洋風建築が主流となっている日本の家づくりについて、どう感じているのだろうか。

 

「建築は文化に合わせて、新しいデザインが生まれます。しかし、家のデザインが変化しても、日本人の心の奥深くにあるものは、変わりにくいんです。たとえば、日本家屋には人付き合いするための場所がわざと設けられています。

土間があるのは、近所の人と気軽に交流するため。日本文化が染み付いている人は、内と外、プライベートとパブリックのちょうど良いバランスを保てる日本建築に心地良さを感じるはずです」

 

また、現在の日本の家づくりは、機械で大量生産する流れに傾いてきている。そうなると「あと20年もすれば、家づくりできる大工が少なくなる」とアダム氏は危機感を持つ。

 

「昔とは違って社会に出てから大工を目指す人もいるので、自我の強い職人もいます。そういう人が自分の欲しい技術だけ学んでいたら、伝統的な職人の技が身につきません。

大工職人は機械にできないこと、つまり自分の指先で覚えた専門的な技術と経験がなければ、立場が弱くなってしまいます」

 

たしかに、早く大量につくることが求められる時代になった。木材を機械で加工する「プレカット」という工法を使っている家も少なくはない。しかし、あくまでもアダム氏の家づくりは、国産材を伝統技法でつくり出すことである。

 

「材木を継手するときは、木材をつなぎ合わせる番(つがい)が必要です。しかし、プレカットに向いているのは海外からの輸入材。国産材を使いたかったら、やはり伝統ある日本の職人技を使わないと。国産材をうまく、そして早くつなぎ合わせることが、大工の腕の見せどころなんです」

 

 

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伝統技術を生かして、お客様のニーズに応えたい


かつてアダム氏は「自分の作品を残したい」という気持ちで家づくりをしていた。カナダから来日して、必死に覚えた日本の伝統技術。どうしても、大工職人としてのプライドやこだわりがある。しかし、独立後に関わった日本家屋でその考えが変わった。

 

「一緒に家づくりしていた左官職人に『どんな壁にしたい?』と聞いたとき、『いや、僕たちはサービス職だから、お客様が欲しいものをつくるだけだよ』と言われたんです。

そう言われて、お客様の家は私の作品じゃない、と気づいたんです。たしかに、プライドを持って手を抜かないことは大切です。しかし、その家にお金を払うお客様が喜んでくれることが大事なんだ、と考えるようになりました」

 

その想いに拍車をかけたのは、過去に関わった日本家屋の定期検査に行ったときのことだという。

 

「過去に関わった家に訪問してみて、磨き上げられた床や手すりの綺麗さに驚きました。それは、大工でも出すことができないツヤだったんです。なぜ、そこまで磨き上げられたのか。

それは、お客様が家を気に入って、大事にしたいと思ってくださったから。だから、いつまでも大事に使ってもらえるように、お客様に喜んでもらえる家づくりを目指しています」

 

そのためには「必ずしも昔の型にはめ込もうとは思わない」とアダム氏は語る。

 

「注文住宅なので、お客様それぞれに理想の家は違います。100年前の家は、もしかしたら現代のお客様の生活に合わないかもしれない。

だから、昔の知恵を生かして現代のお客様に合うものをつくるということは、チャレンジなんです。大工には、お客様のニーズに合わせて家づくりをする責任があります」

 

「日本建築を、後世にも残し続けたい」。そう考えるアダム氏だからこそ、そこに住む人たちの想いにより沿った家づくりができるのだ。

 

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取材協力=KOYANE建設、アトリエDEF
文=流石香織

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